自然物にいやされて

 4歳児のAくんは登園時、時々、お母さんと別れがたく、涙を見せます。理由は日によっていろいろですが、預かり保育の日が一因となることもあるようです。
 まぁ、お友だちが通常の保育時間に帰宅するのに自分は園に残る、というのは、やはり寂しく、そして悲しくなるものですよね。気持ちはよくわかります。
 そんな時は担任がていねいに対応し、気持ちの切り替えを促しています。Aくんも担任のサポートを受け、お母さんの姿が見えなくなると、意外にケロッと落ち着きます。
 “さっきまでの大泣きはなんだったの~”
 思わず、そんなツッコミを入れたくなる日もありますが、こうした姿はAくんに限らず、幼い子どもにはよく見られるものです。その意味で、別れ際の涙はひとつの「儀式」みたいなものかもしれませんね。
 ただ、この日は涙は乾いたものの、自分の部屋に入るのをためらい、砂場周辺でたたずんでいました。そこで、登園が一段落し、正門を閉じ、手が空いた私がアプローチしてみました。
 でも、ストレートに「元気を出そう!部屋に入ろう!」では、気持ちの落ち込みを逆なでするだけです。
 “どうしようかな・・・”と迷っていると、Aくんが「アリだ」とつぶやきました。見ると、たくさんのアリが列をなして歩いているではありませんか。虫の動きを見るのは私も好きなので、思わず「すごいね!」と叫んでしまいました。そして、事務所の前に大きな巣穴があることを思い出し、Aくんを誘ってみました。
 「エ~、どこどこ?」
 Aくんもすぐに反応してくれました。
 その後は、2人でしばらくアリの巣穴探しを楽しみました。そして、Aくんの方から「楽しかった」と言い、自分から部屋に戻っていきました。
 キッカケがあれば気持ちが切り替えられるのに、それがなかなか見つからず、ズルズルと落ち込みが続いてしまう。子どもだけでなく、大人でもあることですよね。そんな時、自然物がキッカケを与えて入れることは意外に多いもの。自然物特有の形態や色彩、そして動きなど、その魅力はなかなか言葉に表しにくいものですが、なぜか、心がいやされます。みなさんも、そんな体験ありませんか?!
 大人が “なんとかせねば” と力むより、時に自然物に助けてもらうと、子どもも自分で落ち着きを取り戻し、前向きになっていくようです。自然は偉大です。
2023年06月07日