「静かな表し」を見逃さないように・・・

 事務所でパソコンに向かい、急ぎの仕事をこなす中、Aくんがいることに気づくのが遅れました。Aくんが「園長先生、見て!見て!」と大声で呼びかけてくるタイプではないことも、気づきが遅れた要因かもしれません。
 さて、Aくんは何の用事があって、事務所にいる私を訪ねてきたのでしょうか・・・。
 それは手にしたものを見れば、すぐにわかりました。風車を見せにきてくれたのです。
 実は、前日、Aくんは「風車がない」と困っていました。帰りの時間が近づき、クラスメートがお部屋に入った後も、入室をためらうほど、風車が気になっていました。ただ、大泣きしているわけではありません。探し当てることを周りに強く求めるわけでもありません。しかし、表情は曇っており、風車が見つからないことへの不安、不満、戸惑いなどを持っていることは確かです。
 そこで、私はAくんが納得するまで、一緒に探していこうと考えました。
 まずは、Aくんのロッカーを確かめたところ、小さめの風車がありました。
 私「風車、ここにあるじゃない。良かったね」
 A「それじゃない。」
 私「エッ、違うの?」
 A「大きい、黄色の風車」
 私「エ~・・・、どんなのだろう?」
 担任や友だちに聞いてみたものの、誰も見ていない、わからないとの返事。でも、Aくんが「ない」と言っているのですから、「あった」はずです。そこで、園庭も含めて、Aくんが歩いた場所などを聞きながら、あちこち一生懸命探しました。しかし、結局、その日は見つかりませんでした。Aくんは、とても残念そうな表情のまま、降園することになりました。
 「かわいそうなことをしたな・・・」
 私も申し訳ない思いを抱えたまま、帰路につきました。
 ところが、翌日、Aくんは黄色の大きな風車を手にすることができたのです。聞けば、担任があげたとのこと。
 “なくしたのなら、自分で作り直せばいいだろう”
 どこからか、そんな声も聞こえてきそうですが、それではAくんが感じている悲しさや、切なさは解消しない気がします。“甘い”と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、繊細、かつ、目立ったかたちで自己表現しないタイプのお子さんには、時に、丁寧にフォローしてあげることも必要だと思います。
 こうした大人の寄り添いに安心感を感じれば、子どもも少しずつ、自分の力で問題解決していけるようになるでしょう。自立する姿を望みたいのはヤマヤマですが、幼児期はまだまだ手をかけてあげてよいことがたくさんあります。特に、内面に様々な思いを持ちながらも、それを前面に出すことに時間がかかるタイプのお子さんには、より丁寧な対応が求められます。Aくんの健気な姿から、保育者が大切にすべき姿勢を教えられた気がしました。
2023年05月30日